大学中退でちょっと中途半端な毎日を送る主人公、ルイスが、精神病院での、演劇療法の演出の仕事を手に入れ、
患者たちとモーツァルトのオペラ「コシ・ファン・トゥッテ」、を作り上げていく話です。
映画ではその上演にこぎつけるまでに紆余曲折あるわけです。
といって、ルイスの生活の天と地とがひっくりかえる訳ではなく、結構たんたんと話が進み、もちろん、稽古場消失と
演出家としての仕事を首になることと、それにもめげずこっそり患者たちとオペラの練習をする、という所はとてつもなく
ファンタジーくさいですが、患者たちの不安定さや、主人公の彼女とのやりとりの小さなリアルさが、
大きなファンタジーを支えているという感じがしました。
これに出てくる(演劇療法に関わる)患者たちの多くは、投薬と適切なサポートがあればそれなりに社会適応した生活が
できると思わせる程度の多分、重度ではない精神疾患患者に見えます。
そしてそうではない、どうしても病院外の生活はムリそうと思われる一人は劇からドロップアウトしてしまいます。
そのあたりの、制限無しには一緒に暮らせない人、とそれなりに暮らしていける人の差は差として歴然とあって、
どんな症状の人とでも一緒に力をあわせてオペラを成功に導く、という事にしないあたりが、ファンタジーの中の一つの
リアルさになっているような気がしました。
主人公のルイスは、患者たちにとても優しいです。優しいというと語弊があるかもしれませんが、患者を自分のできる範囲でそのまま受け入れて彼なりに対応しようとしている。それにはそれなりの背景があるのだとはほんの少し映画の中で語られていますが、その背景だけでそうそうこういう対応ができる訳ではありません。彼の、患者たちに寄り添いながら、演出を続けていく姿勢があるから、上演に持って行けたのかなと思いました。後はもちろん「音楽」や「芝居」の持つ力の大きさですが。
患者たちとの関係と同時に、恋人との関係も描かれているのですが、主人公が仕事をはじめる前に、それなり安定していた
関係が、この仕事を初めてから崩れかけて、そして、また修復されていくという部分が派手にでなく描かれていました。
演出の仕事を受け持つことで、精神的にも物理的にも手間を患者たちに取られるルイスに対して、どこか不満を
持ち出す恋人、ルーシーのある部分身勝手さや(仕事をきちんとして、変わって、と願っていた筈なのに!)
、彼女に対する言葉が足りなく、またオペラの筋立てと交錯するように、彼女の愛に不審の念を抱きはじめる
ルイスの、恋人との関わりの変化が、映画の筋立てとしての「恋人たちのすれ違い」には正直弱い印象を持つものの、
現実の恋人たちの葛藤としてはいかにもありそうなものに描かれているように思えました。
終盤のオペラの公演部分は楽しく、可愛らしく、静かな大団円に向けて話しがまとまっていき、見終わって、どこか
ほっとする気持ちになりました。
地味ですが丁寧に作られている佳品だと思いました。
さて。この映画はデイヴィッド氏目当てで見ました。デイヴィッド〜デイヴィッド〜と探しながら見ていたのに。
実は彼がどの役をやっているのか、かなり時間がすぎるまで納得できませんでした。
たぶん、これが彼だよねぇ。と思いつつ、でもなんか本人に見えない〜と結構真剣に悩んでしまいました。
表情と動きのせいでか、デビッド氏に見えなかったのです。
彼はこの映画では放火癖のある行為障害の青年を演じていて、すごいです。ワイセツなパフォーマンスとか、
入院に至る経過(結構怖い内容)を嬉々として主人公のルイスに語るシーンとか。
この映画はもともとは舞台で初演されたものを、構成をかえて映画にしたということで、デイヴィッド氏はその舞台の方にも出演していますが、誰の役かは確認できませんでした。舞台でも同じ役だったのかな?
映画ではバリー・オットー、エオウィン役のミランダ・オットーのお父さんと共演しています。ミランダと
そんな話をしていたらなんか楽しいかもと思ったりしました。
03/05/18
追記:舞台でもダグ役だったと、オーストラリアのcatholicweekly2002年6月30日の記事にコメントがありました
AU版 リージョン4。字幕あり。 特典はTHE LIBRARY OF THE AUSTRALIAN FIM AND TELEVISION AND RADIO SCHOOLからのショート・フィルム、 THE TWO-WHEELED TIME MACHINE (1997)。:EzyDVDで購入。
Cosi Screenplay
映画シナリオ。シナリオに加え、映画からのスクリーンショット、舞台脚本と映画脚本の両方を担当したLouis Nouraの序文、David Strattonのエッセイ付き。Appendixとして映画本編からカットされたシーン、及び、アメリカ版の代替シーン、TV&機内放映用のダグのラップあり
Cosi
舞台脚本 改訂版 Gerry Turcotte 及びLouis Nowraのエッセイ、初演時及び、1993年、State theater companyでの公演時の写真あり。映画とは随分趣が異なります。
コシ/ゴールデン・エイジ
舞台脚本 改訂版の邦訳。訳は佐和田敬司 オセアニア出版社。オーストラリア演劇叢書9 2006年9月20日発行。
あとがきにオーストラリア及び日本における初演時キャストデータ、映画版Cosiについての言及あり。