Kirby家の4人の男たちの物語。兄弟の話であり、父子の話であり、夫婦(恋人)の話であり、そして個人と家族の話です。
三兄弟と父親のそれぞれの葛藤と喜びについてのストーリーが、それぞれに見応えがあります。
兄弟間のあれこれ、というよりは、4人の男性の、それぞれの家族や、パートナーシップや、生き方が描かれており、
その4人の間が、父と息子であったり、過去や、両親を共有する兄弟であったり、
家族、というゆるやかな縦と横のつながり を持って描かれています。そして父として息子としての過去のありようが、現在の彼らの関係と、
強く結びついており、ドラマが進んでいくほどに、それが明らかになっていきます。
父親の音楽的な才能を受け継ぎ、しかし父の思惑を裏切る形でロックミュージシャンになって人気を博したものの、中年期に入り、現代のミュージックシーンとのずれ、過去の名声とのずれに焦燥を
感じている長子のマーティン。大きな建築会社に勤める工業建築家で、仕事は高く評価され、妻と息子たちとがいて、社会的には非常に満たされていると
考えられていたのに、その実、結婚生活は破綻し(彼がそれまで気が付かなかっただけで)、仕事も、何もかもをひっくるめた、自分のアイデンティティが崩壊寸前の危機にさらされる次子のアレックス。
ある意味一番健全なものの、自分の望む家族を作ることができずにいることに一抹の寂しさを覚えている末子、トビー。
3人兄弟のポジションがそれぞれらしくて、分かりやすい、といえば分かりやすい、
或る意味とってもベタな役所ですが、演じる俳優たちの力量のおかげで少しも安っぽくなく説得力のあるドラマになっています。
アルツハイマー病に侵された父、クリフは、自分の中だけで過去と現在を行き来し、現在の息子達との時間はほとんど交差しません。
ときどき交差しはするのですが、継続的ではありません。
現代の息子たちと若い頃の父の姿が一緒の画面におさまったり、父の若い頃の話なのに、年老いた現在の父親の姿で映されたり、と
過去と現在の姿が混じりながら、話が作られていく、そういった映像の処理もおもしろく感じられました。
過去と現在が「まだら」に混じっているのがいかにもアルツハイマーという病状にもあっている感じがしましたし、クリフの過去にある、愛情と哀しみと、
彼個人の人生にとって非情な暴力であった戦争の記憶、そうしたものに依って彼がしてきた選択と、その結果としての現在のクリフが、
混然一体となって見る側にせまってきます。
父、クリフの青壮年期を演じたエイデン・ヤングの、甘い、端正な顔立ちが、過去のノスタルジックな映像に
ぴったりしていました。
途中せつないシーンが満載で、この男たちがどこへどう着地するのか、と、最後まで目を離せませんでしたが、
父はなるべくしてそうなり、息子達は、最後は、家族のあり方として3人ともがかなり希望ある場所に着地していた
ように感じられました。
3人それぞれがそれぞれの形で新しい家庭を創り上げる、そこには明るい救いがあって、しみじみとした良さを感じました。とても見応えのあるドラマです。
またこのドラマは音楽が重要な位置を占めており、それにあわせた、サウンドトラックがとても効果的に使われていて素晴らしかったです。
この三兄弟は、誰もがとりかえのきかない役所で、とても良かったです。スティールを見たときは全然似てない兄弟だ〜などと思っていたのですが、
動いている彼らを見ていると、ああ、兄弟だ、と感じました。それは父親の存在のせいかもしれませんし、
(老年の父役をやられた方の顔立ちがちょっとずつあの3人に似てる感じがしたんです。思いこみかもしれません)
友人同士とはちょっと違う「馴れ」といったような雰囲気や、また兄弟だからこその、鬱陶しさのようなものが、彼らの演技から伝わってくる感じが
しました。一番ひいきのデイヴィッドはおいておいて、ヒューゴー氏もサミュエル氏も表情が素晴らしく良くて、やっぱり上手いな〜とか思いながら見ていました。
期待を背負わされ過ぎてはじけてしまった?、長子のマーティンはなんというか愛され慣れすぎていて、ちょっとそういう意味で全体に
傲慢な所があるよな〜と思ったり、アレックス、やっぱり一番不憫〜と思ったり。それからトビーは、一番安定しているようでいて、でも彼は彼で、省みられなかった息子、
という感じ
のエピソードもあり、(アルツハイマーの父が、息子たちの写真を見て、マーティンの名前がすぐ出て、一生懸命思い出してからアレックスの名前が出て、
そしてトビーの名前が結局出てこなかった、などというなかなかに痛々しいものでした)
また長兄と次兄の間に入って微妙な仲の二人をを取り持とうとするあたりがいかにも弟だな〜という微笑ましい一面とあわせて、簡単ではない、家族関係が
見えました。
家族が崩壊していくその時の、半泣きデイヴィッドにはもうやられた〜 状態でした。
アレックスは、ある部分、ごく普通の、ごくまっとうな男の人が描かれているな、と思いました。
奥さんとの毀れてしまった関係に焦燥したり、せっかくの息子の面会日に雨降りでさんざんだったり、とかそのヘンが余計にせつなく見えたりするんですけどね。
奥さんとの、関係が、夫婦としてはもう修復できない、というところ、でも憎みあっている訳ではない、という所が男女の間としてしんどいな〜など思ってみていました。
奥さんが、もっと鈍感な人だったら、或いはもっといろんな事に達観している人だったら、アレックスの所は破綻への道を進まなかったのではないかと思いました。
「外からみたら何の不満もなさそうなのに、夫婦間の事は分からない」、ということの典型のような夫婦に見えました。
デイヴィッドが良かったのはもちろんのこと、長兄役のヒューゴー
・ウィービング、末弟役のサミュエル・ジョンソンをはじめ、老年期の父親役のRay Barrett,
青壮年期のエイデン・ヤング、それからそれぞれの妻(と恋人)を演じる女優陣がとても
魅力的で良かったです。
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